成仏と往生のために生まれた日本固有の石塔。
五輪塔は下から、方形の地輪(ぢりん)、円形の水輪(すいりん)、三角の火輪(かりん)、半円形の風輪(ふうりん)、宝珠形の空輪(くうりん)という5つの部位で成り立っています。地・水・火・風・空の「五輪(五大(ごだい))」は、宇宙を構成する5つの要素。すなわち大日如来のお姿を表すものです。古代インドで生まれた密教の思想です。日本では弘法大師空海が中国唐から伝え、真言密教の重要な教えとなりました。
空海入滅から300年たった平安末期、その五輪の思想に基づく五輪塔がつくられるようになります。のちに「真言宗中興の祖」と呼ばれる覚鑁(かくばん)上人が、大日如来と阿弥陀如来が一体であることを説き、浄土教の浄土思想と真言密教を融合させることにより、墓塔や納骨の容器として新たに五輪塔を生み出したのです。
「大日如来(すなわち阿弥陀如来)の化身である五輪塔を墓塔とすれば、成仏して、西方浄土へ往生できる」という教えを高野聖(ひじり)たちが全国に広めました。岩手県平泉や大分県臼杵に、平安末期作の五輪塔が今も残っています。以来、浄土思想とともに全国に普及した五輪塔は、日本を代表する歴史的な墓塔といえます。
五大、一切の徳を具え、
輪、円周して欠けることなし。
とわに天空へ祈りを運ばん。
あまた古建築に成されし大面取、
五輪の塔に施せば描かるる曼荼羅。
即ち八葉の花びらに各尊、中央遮那の九尊を以て
咲き満つる中台八葉院となりぬ。
子々孫々、幾とせを長らえる石肌。
時ととけあう古よりの叩き仕上げにて。
五大、一切の徳を具え、輪、円周して欠けることなし。とわに天空へ祈りを運ばん。
あまた古建築に成されし大面取、五輪の塔に施せば描かるる曼荼羅。即ち八葉の花びらに各尊、中央遮那の九尊を以て咲き満つる中台八葉院となりぬ。子々孫々、幾とせを長らえる石肌。時ととけあう古よりの叩き仕上げにて。